伝統漢方専門老舗



       
 

       漢方の臨床第70巻第12号(2023)

     片桐棲龍堂漢方資料館を訪ねて
                     小曽戸 洋


片桐棲龍堂は堺市堺区西湊町に昔から存在する老舗の漢方薬舗である。
その創業は戦国時代末期の文禄二年(一五九三)に遡るというから、とてつもなく古い。
現在の当主は本協会会員でもある片桐平智氏 (76歳)で、筆者より年長ではあるが、以前から親しくさせて頂いている。
片桐平智氏は漢方関係の古医学史料や古文物一般にも造詣が深く、その点でも共鳴するところが多く、
筆者はこれまで数度片桐邸をご訪問したことがある。

今年の十月十七日にも、知人西山謹司氏と武田科学振興財団杏雨書屋学芸員の瓢野由美子女史とともに
片桐棲龍堂の文化財施設を訪問、見学した。

片桐棲龍堂は豊臣秀吉に土地を賜り、当時より現地に館を構えた。
棲龍堂とは代々当主が寛龍の名を襲称するからという。また館が龍穴にあたるからともいう。
江戸時代には岸和田藩や和泉・伯太藩の藩医を歴任したが、明治の法制度改革により、家伝漢方製造販売の
薬舗に転じた。

片桐接龍堂の漢方資料館は国指定登録文化財建造物に指定されている。
資料館は一階と二階とがあり、さらに立派な新展示棟も新築されていた。
その収蔵展示の医薬学史資料の種類(領域の広さ)と数量がすごい。
何度行っても毎回目が回り、覚えきれない。

曲直瀬道三の『切紙』、香川修庵の墨跡、富岡鉄斎の扁額、長大なイッカク、 華岡家伝資料、疱瘡関係資料、
コレラ関係資料、古い解剖図、動植物の古画、針灸関係資料、珍しい本草薬品標本、薬看板の数々、
癖病関係資料、神農像の数々、仏教医学関係資料、チベット医学関係資料、医薬関係錦絵、茶道具関係、
古代文物の数々・・・・・・などなど挙げれば切りがないほど。

筆者の専門は医薬学史であるから、こういう文物に関する専門知識にはある程度自信があるのだが、
ここに来るとその自信が毎回揺らぐ。

堺市指定文化財の名勝第一号に指定された片桐棲龍堂庭園も見事である。
昔の創意に富んだ庭園の遺構の数々が保存されており、この方面の知識に乏しい筆者には理解の及ばない
ところが多いが、日本庭園に詳しい人には素晴らしい名勝なのだと思う。

この小文では個々の収蔵品についてはとても解説しきれない。それほどの量があるのである。
ネットで片桐棲龍堂のホームページを見ると詳しい紹介がある。
一度そのホームページをご覧になってはいかがだろうか。

末筆ではあるが、懇切にご接遇頂いた片桐平智先生、また訪問に関してご高配頂いた知友の西山謹司氏には
この場を借りて深湛なる謝意を表します。  
                             (東亜医学協会)